取材協力:サッポロインNADA オーナー 小鹿様
ゲストハウスを始めたきっかけを教えてください
最初は札幌市内で喫茶店を営んでいまして、その時のお客さんで、日本一周の自転車旅行をしていた人から色んな宿の情報を教えてもらったんです。
そのお客さん自身も礼文島のユースホステルでヘルパーをされていたのですが、その時に札幌で若い旅人を安く泊めるような場所がないという話を聞き、移転のタイミングで宿も始めようと宿泊業を始めました。
移転後は建物を自分たちで改装し、5年ほど喫茶店と宿を運営していましたが、立ち退きで再び移転。1991年にこちらに移ってきた時に【サッポロインNADA】という名前にしました。
現在は身内のほかにスタッフ1名の家族経営をしています。
25年以上前のオープン当時は、周りにゲストハウスはありましたか?
当時はホテルか旅館が殆どで、「ゲストハウス」というもの自体が市内にありませんでした。そもそも私が始めた頃は「ペンション」という名前もなく、「旅人宿」という名前で呼ばれていましたね。
一時期、ユースホステルでヘルパーをしていた人が独立し、宿を始めるというブームがあったんです。それが旅人宿と言われていました。その後にペンション、そしてゲストハウスという名前に変わってきました。
喫茶店と宿をやっていた時は私もペンションという名前を使っていましたが、当時市内でペンションという名前は数えるほどしかなかったですね。
つまり、旅館業という業態は変わらないものの、時代やお客さんに合わせ呼び方が変わってきているのです。
ホステル名の由来を教えてください
NADAというのはスペイン語で「なにもない」という意味。以前の宿は「すっから舘」という名前でやっていまして、それをスペイン語に訳して「NADA」にしました。
実はひとつ逸話がありまして、外国人のお客さんが札幌駅でタクシーを停め、運転手に「すっからかんお願いします」と言ったらしいんですよ。そうしたら「“すっからかん”なら乗せられない」と降ろされたらしくてね。本人は降ろされた理由がわからないと言うのですが、それは(財布が)すっからかんという意味だからだと(笑)
そんな事や海外の方も多く来ることから、今の宿は名前を横文字にしました。
当時、横文字の宿はほとんどなかったので、日本の人からは読みにくいと言われましたが、今は海外の方やスペインの方も来るので馴染んでいますね。
どんな方が利用されるのですか?
国内がやっぱり多いですね。海外の方は3割くらい。和室がメインなので、家族連れや外国の方は好んで利用されます。
最近は札幌市内に民泊や外国人相手の宿が急速に増えていますので、そっちに流れているのが現状。でもそこで普段泊まっている人が宿を抑えられなくて、うちに来てくれることは多いですね。
それに長くやっていることもあり、道内の方はだいたい常連さんがメイン。札幌で買い物やイベント、野球の試合とかで来てくれるのですが、週末に偏っちゃいますね。
サッポロインNADAの強みはどんなところですか?
ここは元々、お茶の先生と学校の先生が住んでいた和室のある建物で、そこを改装して作っているので、普通の日本式の家に泊まるような感覚で泊まれます。日本ならではの畳スペースの利用の仕方が多様にあることが、他のホテルとは違う部分になっています。
和の空間を提供できるだけでなく、海外の方が日本に来た時に新鮮な体験ができますし、家族連れの方で赤ん坊とかがいる場合の使い勝手の良さはベッドとは違うと思います。
また、オートバイや自転車で来る旅行者の方に提供できるガレージがあるのも特長。宿からちょっと歩けば、ススキノに出られるなど立地条件も良いので、田舎にある空間が都会のど真ん中にあるような感覚ですね。
朝食はクリームシチューを提供されているのですか?
そうですね。喫茶店の時から長くやっていたメニューで、それを徐々に変えてきた歴史のある味です。
クリームシチュー以外でもビーフシチューとかを出していた時期はありましたが、クリームシチューのほうが好評だったのでスタンダードになりました。
長く続けている中で、どんなところに仕事の面白さを感じますか?
海外のお客さんって結構何日間も滞在するのですが、そこで仲良くなって友達になり、道内を案内したり、逆に私が海外まで尋ねていってその友達に案内してもらったり。そういった知り合いが増えたというのが、この宿をやっていて良い思い出になっています。
ただお客さんとして対応するのではなく、一つのネットワークができ、それがまた他の人を呼んでという風になるのは、他の仕事では味わえない点だなと。
今の時代はSNSとかでやりとりができますので、私が旅行に出た時に私のSNSを見ていた人が、電車から降りた時に後ろに乗っていたとかもありましたよ!他にも「今○○してる」と発信すれば、そこらの人が集まってきたり、旅先で声を掛けられたりするケースもあります。
こういった色んな人と深い付き合いができるのは、この宿をやっている一つの宝みたいなものですね。普段の生活でそういったネットワークが広がることはないですから。
今後の目標について教えてください
自分の生き方をもっと大事にしたいという希望はありますね。仕事を休みにしてどこか旅行に行っちゃうとか。
半分自分の時間が取れて、半分宿をやってという風にやっていければいいなと。でもまだそれができないので、5年後の目標としたら半分仕事、半分自分の時間にしてメリハリのある暮らしをしたいですね。
これから事業を始める方へメッセージ
これは私のやり方なのですが、一つのカタチにこだわる必要はないなと。
海外の人を泊めることとか、バックパッカーとか、ホテルなんかはビジネス向けのものとか、外国人専門の民泊をやるとか、宿を始める上で色んな方向性があると思うんです。
でも一番重要なのは、それらに属さない人たちをどうするかなんですよね。
例えば、こっちには泊まりたくない、でもこういうものが欲しい、という人もいます。隙間産業的な。でもそういう人も拾っていけるような、幅の広い多面性のある考え方を持っていたほうが面白いと思うし、自分の「これしかない」という宿ができるような気がします。
時代の流れや人の流れは日々変わるもの。ですから最初は方向性を決めた状態でも、それに合わせて宿のスタイルもだんだん変化していきます。でも、それは変えるのではなくて、自分独自のものが出てくると思って考えれば、他にはない自分なりの宿ができるんだと思います。つまり、時代の流れの中で多様化していくことが重要で、そうすれば必然的にネットワークというのもできてくると思いますね。
<サッポロインNADA概要>
住所:札幌市中央区南5条西9丁目1016-14
TEL:011-551-5882
アクセス:南北線「すすきの駅」4番出口より徒歩10分、東西線「西11丁目駅」より徒歩10分
CHECK-IN:12:00~ / CHECK-OUT:10:00
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